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シネマ絵ッセイ

映画の感想、考察、レビューなど 絵や画像を使ってエッセイ風に書いています

「地獄の黙示録」感想~光の嘘、闇の真実~

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地獄の黙示録」作品紹介

1979年公開のアメリカ映画
監督:フランシス・フォード・コッポラ
原案: ジョゼフ・コンラッド『闇の奥』
2001年 53分の未公開シーンが追加の
地獄の黙示録 特別完全版』も参考
※予備知識
●元は『スター・ウォーズ
のルーカス監督の企画。
作品の権利をコッポラ監督
に譲り渡したのが始まりだそうです
●コッポラ監督は映画化にあたり、
『闇の奥』以外にもさまざまな
作品をモチーフにしたらしいです。
①詩人T・S・エリオットの『荒地』
②王殺しや神話的なイメージ
③日本の三島由紀夫も参考に
④独特の音楽はシンセサイザー
世界的評価を当時受けた冨田勲を参考
カンヌ国際映画祭 
パルム・ドール受賞

目次

◆あらすじ

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地獄の黙示録・特別完全版 Universal”

1969年ベトナム戦争下ー
戦いに疲れ、二日酔いに苦しむ
ウィラード大尉(主人公)に
一つの指令が下ります
戦争で正気を失い、
暴走するカーツ大佐を暗殺せよ
カーツ大佐を探して
ジャングルの奥地へと向かう戦場の旅。
そこで目にする地獄
そこで出会う戦争の真実
そこで見つける魂
旅の終点でウィラード大尉を待ち受ける
「闇の奥」とは…

◆序章

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地獄の黙示録・特別完全版 Universal”

「君は考えたことがあるのか
真の自由とは何か?
他人の意見にとらわれぬ自由
自分からも解き放たれた自由」


軍人として
命を賭けて任務をこなし
終点にたどり着いた
ウィラード大尉(主人公)に
カーツ大佐が語る
印象深いセリフの一つです


社会で生きていれば、
集団の中で生きようとすれば
One for all, All for one
「一人はみんなのために、
みんなは一つの目的のために」
そう生きるのが肯定されますし、
誰もがそれを「善」と考えます
でも、立ち止まって
心の声に耳を傾けてみます
聞こえませんか?
押し殺していた自分の声
それは苦しい顔つきをしていませんか?


「一人はみんなのために、
みんなは一つの目的のために」
これは人間にとって果たして
本当に「善」なのでしょうか?
「一つの目的」が
いつも正しいとは限りません
もし狂気であったなら…


戦争を「悪」と世の中の人は考えます
ではその戦争をしているのは
何者でしょうか?
軍人さんの集まりー
軍隊ですね
戦争を「悪」とするならば
「軍隊」も悪であるはず
でも軍隊は正義の戦いを語ります
「一人は国のために、
みんなは国の正義のために」


抱える矛盾。


人殺しは「悪」と世の人は考えます
しかし軍隊は正義のために人を殺します


地獄の黙示録」という映画は
軍人として戦争を生き抜くうちに
この矛盾に気づいたしまった
二人の男が出会うまでの物語。


光を浴びた偽りの自分に悩む者
闇の中に沈んだ本当の自分を発見した者


立場は敵対していますが
魂は惹かれ合う
長い川のぼりの旅の果てで合流します


「俺が彼の物語を伝えるのは
偶然ではない
彼の物語は俺の物語」


この二人がで出会うまでの魂の旅
合流した二つの魂が
出した答えにについて
お話していこうと思います

※ここから先はネタバレ感想です 
 ご注意下さい

 

 ◆1章 見えない重圧

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地獄の黙示録・特別完全版 Universal”

ハエのようにうるさい
戦闘ヘリのプロペラ
天上で回り続ける扇風機の羽
一つに重なる羽の残像
宙を見つめるウィラード大尉の瞳


戦場では故郷を想いー
故郷ではジャングルに
戻る事ばかり考えていた
ここにきて一週間
指令待ちだ


軍人に「選択」はありません
命令は絶対。
その重圧は
指令待ちのウィラード大尉の
心境を表している
印象強い冒頭のシーンに重なります


「部屋の壁が少しずつ俺に迫ってくる」


鏡に映る自分に八つ当たり
もがく自分を砕こうとして
自分を傷つける


水を一気に飲み干しても
無くならない渇き


ただどうにもならない
「もどかしさ」に嘆くしかない
孤独な焦りが
見えない重圧として胸に迫ります

◆2章 「独断」という罪

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地獄の黙示録・特別完全版 Universal”

二日酔いに苦しむウィラード大尉に
兵士達が指令を届けにきます。
本人の意志は問いません
気分が悪かろうが
ベッドから引きずり出し
現場に向かわせようとします。


皆勤賞が勲章で、
心が病もうが
体が病もうが
病気は全て言い訳。
休むことは皆の迷惑。
学校、会社まで続く暗黙のルール
まるで軍隊
どこか社会は軍隊に似ている気がします


現場に着くと幹部達から
指令の内容を知らされます
ベトナム人スパイを処刑した
カーツ大佐という男を始末しろ」
これは、

「処刑したことが罪」なのでなく、
「独断で処刑した」こと
「自分勝手な判断」で殺したことが
問題となっています


軍隊という世界では
「自分」を持つことが最大の罪なのです


何かに似てませんか?
社会?あるいは会社?
自分を押し殺し、黙々と
働くことを美学とし
報連相(報告、連絡、相談)
という言葉が示す通り
風通しの良いパイプとなって生きる
ことを求められます


だから「抹殺しろ、私情を捨てて」
と念を押され
危険で重要な任務でさえ
無かったこと扱い
組織の都合で消されてしまいます
ウィラード大尉のつぶやき
「俺は任務を引き受けた、
他に何ができる?」
ただ捨て駒のように働く
兵隊も社会人も
自分勝手は
他人の、組織の、社会全体の迷惑になる
だから命令通りにこなします


その後に続く自信無さげなつぶやき
「だが覚悟はおぼつかなかった」
この言葉は
与えられた任務(仕事)をこなす
ことに意志は存在するのか
という問いに聞こえます


ウィラード大尉は
やる気がないわけでなく
任務をこなすが、
それは本当に
自分の意志で決めているのかに
疑問が残っているのです


軍隊にいれば
任務だからやるのは当然ですが
ウィラード大尉はそこに
兵士としてでなく、人間として
ロボットでなく、生き物として
疑問を抱くのです


もちろん下手に自分の意志を込めれば、
軍隊の規律ある任務遂行はできません
しかし押し殺した自分というのもまた
どんな兵士、
あるいは人間の中にも
残り続けるものです


また任務の内容にも
ウィラード大尉は疑いを持ちます
同じアメリカ人
しかも格上の将校


「何も違いないはずなのに
何が違った?
戦場で殺人罪
レース場で速度違反を取り締まるか?」


戦場で殺人罪の矛盾。
殺すこと自体が悪ならば
この戦争自体が罪ではないか?
この旅の出発で
彼は自分の今まで信じてきたもの
軍隊
命令
従う自分
に揺さぶりの波が
静かに起き始めます

◆3章 戦場のカオス

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地獄の黙示録・特別完全版 Universal”

戦場の空を駆け抜ける
騎兵隊のヘリから響く怒声
「神経戦だ 音を上げろ」
サングラスにカウボーイハット
上半身裸の男が
声高に命令します


この男「キルゴア大佐」。


誰がやったか
敵にわからせるため
死のカードと称して
スペードの2… 
ダイヤの4… 
クラブの6…と
死体にトランプカード
をバラまいていく


死にかけの敵のベトナム兵に
「はらわたが出るまで戦う奴には
おれの水をやる」
と敵兵の心意気を喝采


ワーグナーで震え上らせる」
朝日を背に突っ込んで
音楽をスタートさせる 
鼻息荒くするハイテンション


不思議なオーラでかすり傷一つ負わない
そのバイタリティーに圧倒されます。


対比的に
下からの銃弾に備え
ヘリの中で不安気な顔で
ヘルメットを尻に置いて局部を
必死に守る若い兵士達


17歳のティー
料理人志望の神経質な男
サーフィン好きの優男
貧民街からきた男
まるで戦場経験の無い若者達


戦争に行く人間と
戦争に行かされる人間の対比が交錯します


信号弾がヘリの中に入って大騒ぎする若者


落ち着いて対処するキルゴア大佐


「俺は行きたくない」と泣き叫ぶ若造兵士


戦場でハイになり
爆撃で起きた高波で
サーフィンをしろと騒ぐキルゴア大佐


「俺が安全だと言ったら、
ここは安全なんだ
何が何でもサーフィンするぞ」
戦場でサーフィンを命じる…
バイタリティーなのか狂気なのか?


さらに敵、味方入り乱れて
戦場のカオスは加速します


アメリカ兵が助けようとする
民間人の中に
女の子がどさくさに紛れ手榴弾を放り込む
灰になったヘリに怒りを震わせ
怒声とともに
逃げるベトナムの民間人に
機関銃の雨を降らせる


まるでブルドーザー。
全部根こそぎ潰していく雑さ…
行きつく先は
森ごと焼き払え


「一つの丘を
12時間爆撃し続けたことがある
後には死体一つの残ってなかった
丘全体にガソリンの
匂いがたちこめていた
このナパームの匂い
勝利の匂い
実感した
勝利を
この戦争もいつかは終わる」


自信満々に語るキルゴアに
ナパームの爆風で
風向きが変わり
自分達に火の手が迫る
自分で自分を危険に追い込む
無鉄砲

 

「この戦争では様々な混乱が生じている
権力と理想
古い道徳観と作戦行動」
軍の幹部達が語っていた
戦場のカオスがまさに眼の前で
繰り広げらる
映画史に残るインパク

 

この戦場のカオスという地獄を
目の当たりにした
ウィラード大尉はつぶやきます
「キルゴアは許されて
何故カーツは責められるのか
狂気と殺人が理由?
それはここに有り余っている」

◆4章 舟を離れるな

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地獄の黙示録・特別完全版 Universal”

川を上るための舟を手に入れた
ウィラード大尉達は
ジャングルの奥地へと向かいます。


途中、
マンゴーを探すために舟を出る
森の中で、野生の虎と遭遇
命からがら
逃げるエピソードがあります。


「舟を離れるな 
その通りだ
カーツは舟を離れ
別の道にそれてしまった
将官になれたのに、
自分の道を選んだ
何故だろう
何を見たのだろう」


舟とは軍隊あるいは人間社会。
いくら自由を求める
といっても自分の居所から
出ることは覚悟がいります


何が起こるかわからない


大地に寝そべるのは
自由な風が心地よいが
そこに何が忍び寄ってくるか
わかりません
だから人は舟(社会)にこもります


自分の道を歩くことは厳しい
相当の意志がいるはず
カーツ大佐の意志に
何がそうさせたのかという興味と
尊敬が生まれます。

◆5章 四つ星の道化芝居

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地獄の黙示録・特別完全版 Universal”

日が暮れ
夜闇の川を進む舟の前に現れる
ギラギラの照明
戦場とは似つかわしくない
ライトアップされた舞台セット
燃料補給のために立ち寄ると
ショーが始まる


見覚えのあるウサギマークを付けた
ヘリが夜空から降り立つ
熱狂する飢えた兵士達
ヘリから現れたのはプレイメイト
煽情的な衣装を身にまとい
セクシーなダンスを披露する


命がけの戦場で戦う兵士達へのねぎらい
そうなのでしょうか?
セクシーダンスに熱狂する兵士達は
エサに群がる家畜のようにも見えます


騒ぐ兵士達と裏腹に
腕を組んで怪訝な眼差しで見つめる
ウィラード大尉がつぶやきます
「カーツの怒りは理解できる
この戦争は
四つ星のお偉方が演出する
道化芝居だ」


現場で命がけで戦っている人間
雲の上で
テーブルゲームのように
命のコマをもてあそぶ人間


現場と会議室の温度差
何かうすら寒いものを感じます


嘘。
何かこの戦争に
寒々しい嘘があることに
ウィラード大尉の心は
強く揺さぶりを
かけられていきます。

◆6章 交わる幻想と狂気

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地獄の黙示録・特別完全版 Universal”

雨季の激しい雨が襲い
雨宿りに軍のキャンプ
に立ち寄ります
そこに不時着したウサギマークのヘリ
あのプレイメイト達が
テントの中で
燃料がなくて困っています


ウィラード大尉は
自分達の燃料と交換に
若い兵士達に
プレイメイトを抱かせる
ボーナスを与えます


若い兵士達は地獄の中の夢
に熱狂します
熱狂する兵士とは反対に
青白い横顔
うつろな目で
自分の内にしまっていた
不幸を語るプレイメイト


撮られたくない写真
したくもないセクシーポーズ
アソコにリボンを挟んで引っ張れ
あいつらが
それが君の仕事だ
皆が見たがっている


誰が被害者で誰が加害者か?
苦しめる者はどこにいる?


地を這いまわるベトコンか?
雲の上であざ笑う上層部か?
戦争のメッキが
剥がれ落ちてゆきます。


兵士の夢と
プレイメイトの現実の悲しさ
純粋な若者の瞳と
堕ちた娼婦の唇が交錯する
幻想と狂気に満ちた印象深い
美しいシーンです。

◆7章 切れた緊張の糸

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地獄の黙示録・特別完全版 Universal”

夢のような一夜を開け、
霧モヤの中を進む
ウィラード大尉達の前に
ベトナム人が乗る民間の漁船


ここで一つの事件が起きます。
兵士達が舟の中を
調べようとしている最中
緊張の糸が切れたかのように
ティーンの若造兵士が
ベトナム人に向けて
突然乱射します
勢いに釣られて他の若い兵士たちも…


「皆、ぶっ殺しちまえ❕」
嘆きと絶叫
戦いの疲労と限界。


横たわる無残なベトナム人の死体
一人の女性が
生きているのを発見します


軍の規則だからと
重症の女を病院に運ぼうとする兵に
「何だと?」
とにらみつけるウィラード大尉


とどめの銃声が響く


ぐったりする女性を
呆然と見つめる若い兵士達


「船を止めたから」
の一言を残し、
先を急ぐウィラード大尉


「これが我々のやり方だった
機銃を浴びせて手当をする
欺まんだ
見れば見るほど
欺まんに胸がムカついた」


戦場の嘘に疲れゆく心
そこにカーツ大佐の言葉が刺さります
「戦争には哀れみが必要な時がある
また冷酷で非情な行動が必要な時もある
多くの場合重要なのは
なすべきことを冷静に見極め
沈着に
ためらわず
速やかに行うこと
私は
彼らの偽善的倫理を
超えたところにいる」

◆8章 終わりの見えない戦い

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地獄の黙示録・特別完全版 Universal”

ウィラード大尉達の舟は
アメリカ軍最後の拠点である
ドラン橋に着く


夜闇の中
花火のように銃火器の閃光が飛び散る
激しい前線でやみくもに
銃を撃つ黒人兵士に
ウィラード大尉は言う


「何に向かって撃っている?」


戦場であえてこのクエスチョン
敵が見えない
終わりが見えない
何もかも見えない戦いの疲れ
虚しさ


上からの伝令を知るために
指揮官を探し回る


「指揮官はいるのか?」
ビバリーヒルズにね」
ひと昔前の
セレブへの皮肉が返ってくる


「指揮官はいるのか?」
「アンタだろ」
もう現場の最前線には
先に立って引っ張る者はいない
逃げ出したのか?
投げ出したのか?
責任者がいない現場
ただ残された兵の暴走だけ加速する


責任ばかり押し付ける無責任


「この橋と同じだ
こっちが架けると敵が壊す
お偉いさんのお遊びだ」

◆9章 誰ものぞまない戦い

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地獄の黙示録・特別完全版 Universal”

ジャングルの奥地
先の見えない霧の中を進む
ウィラード大尉達の前に
フランス兵達が現れる
彼らの農園に案内される


屋敷での会食
繰り広げられるフランス人達の論争
そこでウィラード大尉達は
戦争の真実を知ります。


ベトナム兵の生みの親はアメリ
アメリカ大統領が
フランス人を
インドシナから追い出そうと
この地にベトナム兵を作った


フランス人は続けて問います
「君らアメリカ人は、
何のために戦っている?」


「フランス人には戦う理由がある
何もない土地に
ブラジルからゴムの木を
移植して農園を作った
ベトナム人
そこで雇われ、働いているだけ
この土地はフランス人のもの
我々がこの土地にこだわる理由
一族を結び付けている土地だから
戦っても守る」


「自由のための戦いだ?
自由?
なにが自由だ
白人のたわ言
無意味な戦いだ」


「誰ものぞまない戦いだ
君らの戦いを戦うがいい」


黙り込むウィラード大尉
守る戦い?
ー誰を守ることができた?
自由のための戦い?
ー誰を自由にした?
誰ものぞまない戦い
それがこの戦争の真実の姿?
ウィラード大尉の心は
深い海の底に沈みます

◆10章 エロス(生命)の息吹

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地獄の黙示録・特別完全版 Universal”

「天使が通った?」
麗しい貴婦人の言葉が
戦争の疲れで殺伐としている
男達の沈黙を破ります
(フランスでは
沈黙が続くと天使が通ったと
言う習慣があるらしい)


沈み込むウィラード大尉に
フランスの貴婦人が
優しく語り掛けます


「戦争に疲れているのね
インドシナの兵士もそうだった
彼らはこう呼ばれていた
失われた兵士たち」


ウィラード大尉は
貴婦人に導かれるように
マリファナの香りが漂う
ベッドルームへ


怒りすすり泣く
失われた兵士


あなたって人間は二人いる
ー殺すななた
ー愛するあなた


獣なのか神なのか?
ーその両方


戦争は明日もある
あなたは生きている 
それが大事


同じ川に二度と入れない
水はいつも流れてしまうから


意気消沈したウィラード大尉に
命の風を吹き込む
貴婦人との蠱惑的な
美しいラブシーンは
映画の死と緊張の重さに
エロスという
生命の癒しを与えてくれます。

◆終章 闇の奥

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地獄の黙示録・特別完全版 Universal”

 ウィラード大尉達の舟は
ついに川の終点に辿り着きます
眼前に広がる奇妙な風景


彼らを迎えたのは
古代遺跡
群がる未開の民族
よく見ると
黒人、白人、アジア人あらゆる肌の人が
等しく並んでいる
そこには人種がない
皆、我を忘れ
心が無いような
遠くを見るような目をしています


陸に上がり歩を進めると
いたるところに生首
イカれている」
あまりにも文明とはかけ離れた
すべてが狂気を物語る
異様な世界


カーツ大佐を探し歩く
ウィラード大尉を
カーツの信者たちが囲む
泥まみれにされる洗礼。
カーツ大佐の宮殿へ
と連れていかれます

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地獄の黙示録・特別完全版 Universal”

ゆるやかに迫る死の匂い
マラリア
悪夢
物語の終点


電気のない闇が覆う
王室に案内されると
闇の中から巨体を現すカーツ大佐


「彼らは理由を教えたか?
私を殺す意味
私の指揮を断ち切る意味」


闇の中で視線を
泳がせるウィラード大尉


外から差し込む金色の光が
カーツ大佐の
鋭い眼差しの色を強める
「君は殺し屋か?」


見つめ返すウィラード大尉
「私は軍人です」

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地獄の黙示録・特別完全版 Universal”

「どっちでもない
使い走りの小僧だ
店の主人に言われて、
勘定をとりにきた」


最後に待ち受けていたのは全否定。
軍人としての使命感
誇り
人生
何も違いないはずなのに何が違った?


カーツ大佐の眼光が
ウィラード大尉を射抜く
「君は何を期待していた?」


使命。
これは使命でなく命令なのか?
俺はただ言われた命令を
忠実にこなした犬?


闇の宮殿の中に
差し込む
金色の光の中で
詩を読み上げるカーツ大佐


「うつろな人間たち
互いにもたれあっている藁人形
頭の中にわらがつまっている」


「輪郭もない形
色のない影
マヒした力
動きのない身振り」


彼は何に
絶望しているのでしょうか
軍隊?
社会?
人間?
人々の寄り添い合いを
カーツ大佐は
互いにもたれあっている藁人形
と表現しています。


独自の考えと行動は
軍隊では反逆という罪
それで、
彼はその舟から離れ
自分の宮殿を
ジャングルの奥地に作った
彼は家族も捨て、自分も捨てた


しかし
彼は苦悩に引き裂かれている


文明と自然の間
軍隊(社会)と個人の間
家族と自分の間
愛と憎しみの間


どれも捨てきれずにいる自分がいる
執着。
聖書にすがり
家族の写真も
軍隊の勲章も
どれも捨てきれずに彼は手元に置いてある


カーツ大佐自身が
己が憎む
嘘と欺まんとなっていることに
苦しんでいるのです


そして彼が語る恐れについて


恐怖には顔がある
それを友とせねばならぬ
「恐怖」と「それに怯える心」
両者を友とせねば
一転して恐るべき敵となる
真に襲るべき敵


これは
恐怖自身と友になること
→恐れない
恐怖に怯える心とも友になるこ
と→恐れを持つ
この矛盾した両者の心を
持たななくてはならない
とカーツ大佐は語ってもいます


彼は矛盾したものを抱える
嘘に苦しんだ末
その二つを抱え持つ可能性について
気づきます
それが
愛のために戦う
「愛」と「戦い」という矛盾を抱えた
ベトナムの戦士の話です


収容所にいる
ベトナムの子供たちに
小児麻痺の予防接種の注射をした
すると
ベトナム兵が
収容所にいる
予防接種した子供たちの
腕を切り落としたのだ
小さな腕が
山のように積まれていた


声をあげて泣いた
そして私は悟った
ダイヤモンドの弾丸で額を
射抜かれたように


完璧で、
純粋で、
明確で 
一切迷いが無い
そんなことを行う意志


彼らこそ本物の戦士


妻子のために
意志を持って戦う
愛を知りつつ、力を備えた者たち


彼らには手を下す
迷いない意志と力がある
道義を知り
感情に左右されず
理性的判断もなく
原始的本能で人を殺せる者


「迷い」という
理性的判断が敗北を招く


カーツ大佐を苦しめているものは
迷いと嘘


カーツ大佐をが求めているのは
迷いない真実


何よりも嫌悪すべきは
偽りが放つ悪臭
君が私を理解するならー
君がやってくれ


カーツ大佐は二つのことを
ウィラード大尉にたくします


一つは
カーツ大佐が行い、
ウィラード大尉が見た全ての
真実を息子に伝える。


もう一つは
嘘に苦しむカーツ大佐自身を
迷いない意志と力で
ベトナム戦士のように手を下す


恐怖を超えて待ち望んでいたもの
彼との対決


軍隊などどうでもいい
皆がやる時を待っていた
特に彼が


彼は頭が正常だが、
魂はいかれている


人間の心には戦いがある
合理と不合理
善と悪
善が勝つとは限らない
時には悪が勝って
リンカーンの言う心の天使を打ち負かす
誰にも理性の限界がある 
カーツは限界に達しイカれた


俺が苦痛を取り除くのを
彼は待っていた
彼の死を求めていた
彼の城だったジャングルも


金色の雨を浴びながら
詩を読み上げるカーツ大佐
夜闇の中から
後ろから近づくウィラード大尉
闇の中で金色の光を受け
鋭く光る刃物
崩れ落ちるカーツ大佐
巨体が地面に沈む


闇の奥を見つめる
カーツ大佐の眼差し
意識が消えていく中
二回つぶやきます

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地獄の黙示録・特別完全版 Universal”

「The Horrorー恐れだ」
恐怖自身と友になること
自分を殺しに来た
ウィラード大尉による
死と裁きを受け入れること
自分自身の
恐れに向き合うこと


「The Horrorー畏れだ」
恐怖に怯える心と友になること
彼の眼差しの先に広がる夜の闇
ジャングルという
大自然の闇の中で
消えていく命を受け入れること
大自然の中の
小さい魂でしかない
人間の自然に対する畏れを忘れないこと


カーツ大佐を苦しめた
二つの恐れ(人への恐怖)
と畏れ(自然への畏れ)が
死によって一つになり
彼の苦しんだ魂は
金色の雨によって
汚れた血と泥と一緒に洗い流されます

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地獄の黙示録・特別完全版 Universal”

王(人)の居なくなった
城(ジャングル)を去る
ウィラード大尉達


ジャングルの森林は
(自然に対するかつて人がもっていた畏れの心)
爆撃機の炎によって
(人が生み出した文明の恐怖)
全て焼き払われます


全て無にするかのような
痛烈な皮肉を含んだラストカットと
重なるように
ドアーズの歌が余韻を残します

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地獄の黙示録・特別完全版 Universal”

これで終わりだ美しい友よ
これで終わりだただ一人の友よ


築き上げた理想はもろくも崩れ
立っていたものはすべて倒れた


安らぎは失われ
驚きは去って
もう君の瞳は二度と見ることはないだろう


心に描けるのだろうか
限りなく自由なものを


あえぎながら
見知らぬ人の助けを求め


絶望の大地をさまよう


果てしなき苦悩の荒野に
進むべき道を失いー


すべての子供たちは
狂気に走る