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シネマ絵ッセイ

映画の感想、考察、レビューなど 絵や画像を使ってエッセイ風に書いています

1917伝令~映像美に全賭けした強さと弱さ~

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“1917 命をかけた伝令 Universal Pictures ”


※注意 ネタばれ有りエッセイなので、

映画「1917命をかけた伝令」未見の方はご注意ください

目次

「映像の力」に全てが捧げられている
そのチャレンジングな姿勢は好き
新しい戦争映画の傑作の誕生
それがこの映画の第一印象でした。


でも、その振り切りは
諸刃の剣という問題も抱えています。
映像の威力が100%発揮できる
反面、
葛藤のドラマが生まれにくいかもしれません。


以前、監督のサムメンデスが
007シリーズの担当する時
「アクションしつつドラマを展開させる」
理想を語っていた記憶があります。
今回もそのチャレンジの
延長線上にあるような気がします。
ですから
「映像の迫力に圧倒され大絶賛する人」

「ゲームみたい、ご都合主義と冷めた目で見る人」
に分かれるのは理解できます。


映画「1917」の
「諸刃が強さとなって成功した映像美」

「諸刃によって弱さとなったドラマ(葛藤)」
について、お話していきたいと思います。 

◆映像の強さ 地を這う目線

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“1917 命をかけた伝令 Universal Pictures ”

この映画は、見る人に戦場を歩かせます。
その足で
しっかりと踏み進みながら、
戦場の鉛(なまり)色の空気
ハエを呼び込む死体の匂い
クモの巣のように張り巡らされた鉄条網
泥のぬかるみ…


戦場に転がり落ちている
戦争の傷跡を
遺跡巡りのように
歩かせ体験させてくれます。


殺伐とした戦場を、
足音が響くくらい
地を這う目線で
目に焼き付けられる感じがします。

◆映像の鋭さ   不意をつく惨劇

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“1917 命をかけた伝令 Universal Pictures ”

墜落した戦闘機から
火ダルマの敵ドイツ兵を助けるシーン。
スコフィールドが火を消そうと
鉄カブトを水一杯にして振り返ると
血まみれで倒れるブレイクの姿。


敵のドイツ兵の手にはナイフ
ブレイクは内臓を押さえながら息絶えます。


善意が凍り付き
戦場にいることを
胸に刻み込ませる
鋭い映像の力が刺さります。

◆映像の躍動感 命を賭けた疾走

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“1917 命をかけた伝令 Universal Pictures ”

ブレイクとスコフィールドの会話の中で
不潔な髪を気にして、
恋人に送ってもらったヘアオイルを
髪に塗ったまま眠った兵士がいて
ネズミがその匂いを嗅ぎつけ
耳をカジり取られた。
その兵士は、耳をカジり取られた後も
ヘアオイルの匂いがネズミ達を引き寄せ
逃げる兵士にネズミ達が群がったという
ネタ話がありましたが、


これは二人が使命という意思をもって
走り続ける汗臭さー
生きるものの躍動が放つ匂いが 
戦場の災いが嗅ぎつけー
闇の中から次々に襲ってくる敵兵
スナイパーの鋭い銃弾
砲弾の嵐
という死のネズミ達を引き寄せる
戦場の運命が
重ねられているように思えて


次から次へと襲い来る死のハードル
を乗り越えていく
命を賭けた疾走のきらめき
が力強く表現されているように感じました。

◆映像の美学 美しい地獄絵図

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“1917 命をかけた伝令 Universal Pictures ”

物語の後半ー
撃たれて、意識を失い暗転。
目を覚ますと
闇夜の窓枠から
燃え上がる街が視界一杯に広がる。


廃墟となった建物が
地面に黒い影を落とす中
眼の前に現れる
炎の光に包まれた教会


この美しい地獄の中を
走り抜けるシーン
映像に全てを捧げた価値があり
映画史にも残る名シーンだと感じました。

◆映像の癒し 風のささやき

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“1917 命をかけた伝令 Universal Pictures ”

泥と血まみれの景色が続く中
360度視界が開ける感覚で広がる
草原のエメラルドグリーンの心地よさ


ヒラヒラと舞う
淡く白い花びらの癒し


闇の中の救いのように差し込む
ランプの金色の光
温かな日差し


張り詰める緊張の中
心地よい風のように
美しい自然のささやきが
心をなだめてくれる


人の小さな争いには
無関心のように
柔らかい光で包み込んでくれます。


そして目的地に辿り着いた時、
森に響く歌声


何か
懐かしい感じ…
故郷、家族、
争いが始まる前に生きていた
穏やかに流れていた時間
その大切さに
地獄のような戦場を
その足で
血と泥にまみれて
走り抜けたからこそ
歌声が
スーっと胸の中に入り
血と泥に汚れた
「意地だけでしている戦争」
という愚行を
洗い流すように感じる
美しい静寂も映像の魅力だと思いました。

◆ドラマ(葛藤)の弱さ

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“1917 命をかけた伝令 Universal Pictures ”

伝令を届けるというシンプルな物語ゆえ
複雑なドラマは生まれにくいです。
基本、二人の兵士だけで
物語を進めていきます。


舞台もノーマンズランド(無人地帯)
主人公が急がなければならないという
時間制限もあります。
いろいろな人間同士のぶつかり合い
意見や感情の衝突はほとんどありません
何故なら
立ち止まっているヒマがないからです。
そうなると、二人の兵士の中のドラマに
焦点が絞られてきます。


二人の兵士は、
伝令の任務に対する思いに
違いがあります。
ブレイクは兄を探すために危険も
そっちのけで爆進しようとします。
スコフィールドは、
物語のラストで分かるのですが、
奥さんと子供がいて
危険な任務をしたいわけではなかった。
「なんで俺なのか?他の人の方が良かった」
的なセリフを口にしますが
そこに隠された理由が
ラストの方まで見えにくいのです。


ただ危険なだけでなく、
「大切な人がいる」
それは物語の途中の
聖母と赤子の出会いでも
暗示されています。
彼には帰らなければいけいない
場所があり
守るべき家族がいる
ブレイクの無鉄砲に
付き合わされるのは
悩むところがあると思います。
しかし
ブレイクも
兄という帰るべき場所があり
それが危険な戦場を
くぐり抜けた先にある。


スコフィールド
→スタートラインで生きたまま
→帰るべき家族のいる場所
ブレイク
→危険を乗り越えた先のゴール
→帰るべき家族のいる場所
と帰るべき場所が真反対の方向にあります。


この綱引きみたいな葛藤が
物語全体にあるのですが
危険を乗り越え前進する
映像の威力が強すぎて、
帰るべき場所がある葛藤
という後退のドラマ要素が、
かなり薄味になっている気がします。

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“1917 命をかけた伝令 Universal Pictures ”

この「危険を覚悟で駆け抜ける映像の前進する力」

「帰るべき場所のために生き残らなければならない後退する心の葛藤」
の綱引きのパワーバランスが働けば
サムメンデス監督が目指した理想の
「アクションしつつドラマを展開させる」
というさらなる高みに
到達できたかもしれません。


 でも個人的には好きな映画です。
撮影監督に全てを賭けるという
「チャレンジ」
その志と支えたスタッフの働きに
は感心しきりです。
本当に素晴らしい映像は
舌を巻く他ないです。
「戦争映画の名作の誕生」
であることは間違いないと思います。