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シネマ絵ッセイ

映画の感想、考察、レビューなど 絵や画像を使ってエッセイ風に書いています

映画「シェイプ・オブ・ウォーター」感想 ~目に見えない、もう一人の怪物。もう一つの物語。~

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“『The Shape of Water』イラスト化”

目次

◆作品紹介

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2018年制作のアメリカ映画
監督:ギレルモ・デル・トロ監督
代表作「ヘルボーイ
   「パンズ・ラビリンス
   「パシフィック・リム
   「ホビット 竜に奪われた王国
   「ホビット 決戦のゆくえ」

※日本の特撮、アニメ、マンガを愛好
 特に『攻殻機動隊
 の押井守監督を尊敬している
情報:アカデミー賞 監督賞、 作品賞
   ヴェネツイア映画祭 金獅子賞
   ゴールデングローブ賞 監督賞
   LA映画批評家協会賞  監督賞

◆あらすじ

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“『The Shape of Water』20Century Fox”

1962年、アメリカ。
政府の極秘研究所で
清掃員として働く
イライザは
ある日、
施設に運び込まれた
不思議な生きものを
清掃の合間に盗み見てしまう。


“彼”の奇妙だが
どこか魅惑的な姿に、
心を奪われた彼女は、
周囲の目を盗んで
会いに行くようになる。


幼い頃のトラウマから
イライザは声が出せないが、
“彼”とのコミュニケーション
に言葉は必要なかった。


次第に二人は心を通わせ始めるが、
イライザは間もなく“彼”が
実験の犠牲になることを知ってしまう。
“彼”を救うため、
彼女は国を相手に立ち上がるのだが—。 


ー公式サイトより引用ー

◆序章 イントロダクション

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“『The Shape of Water』20Century Fox”

この映画は
二つの怪物の物語
から成り立って
いると思います


一つ目は
アマゾンの怪物と
イライザの
幻想的な恋愛物語


二つ目は
軍人ストリックランドが
人間社会の
圧力によって
怪物になっていく物語


そしてこの
「自然が生んだ怪物」と
「文明が生んだ怪物」の
間で揺れる人々の物語が
二つをつなぐように
語られます


さらに
アナログ文化への愛を
描きながら
古い価値観に囚われている
人間の苦しみや怒り
も描いています


一見、
単純なラブロマンス
しかし実は
海のように深い
魂の物語を


一章で 自然の怪物と文明の怪物の
    間に揺れる人々


二章で アナログ愛と
    古い価値観を嫌う矛盾


三章で 文明の怪物とは何か?


終章で 自然の怪物ーアマゾンの半魚人
    の正体について 
    語っていこうと思います

 

※ここから先はネタバレ感想です 
 ご注意下さい

 

◆一章 自然と文明の間

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“『The Shape of Water』20Century Fox”

この物語には
主人公のイライザ以外に
自然の怪物
である半魚人と
仲良くできる
人達がいます


科学者の
ホフステトラー博士
画家のジャイルズ
の二人です


この二人をつなぐのは
「科学者はアーティストだ」
というセリフです
科学者も画家も
自然と向き合う職業です


また二人とも
社会の中で
うまく立ち回れてない
不器用な人間です
自分の信じるものを
押し通そうとするところに
社会の壁が
立ちはだかっています


彼らの純粋な仕事ー
一途な研究
魂を込めた絵
というのは
「成果」や「利益」を求める
合理主義の社会では
「まとも」な
意味のあるものでなく
偏屈な変わりモノ扱い
を受けがちです


しかし
彼らも一人では
生活が成り立ちません
雇い主がおり
人間社会に
役立つようにと
懸命に頭を下げ、
努力をします


ホフステトラー博士
の場合
研究報告しても
祖国の上司は
内容には無関心
ムシャムシャと
御馳走をほおばりながら
成果だけを吟味します


虚しい空回りを
飲み込んで
歯を食いしばる


アメリカに来たのは
 学ぶためだ
 愛国者として 
 科学者として」


しかし彼は
裏切れない祖国のロシア、
学びたい科学のアメリ
「冷戦」が生み出した
二つの怪物の陰謀の中で
苦しめられます


半魚人の生体解剖を
進めるアメリ


半魚人を殺して
研究中止させようと
するロシア


「私は違う」

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“『The Shape of Water』20Century Fox”

 彼は決断します


「あの複雑で美しいもの
を殺したくない」


ホフステトラー博士は
文明の怪物ではなく
自然の怪物を選ぶのです


彼はイライザが
半魚人の怪物を
逃す手助けをします


そして
ロシアの軍人上司
に皮肉を
言い放ちます


「古い魚には
 何の価値もない」


科学が
文明の利益や成果に支配される
「古い価値」
というのでなく
自然を切り開いていくという
「新しい価値で」
あり続けることを
博士は信じたい
のだと思います 

◆二章 アナログ愛と古い価値感

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“『The Shape of Water』20Century Fox”

画家の
ジャイルズの場合
彼は手描きの
ポスター画家です
そして彼の暮らす世界では
テレビや映画館など
古き良き時代の
ダンス・歌・映画
で満ち溢れています


全て
アナログ時代の文化
ワクワク感を
ノスタルジーに乗せて
夢心地の良い気分に
させてくれます


しかし彼はつぶやきます

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“『The Shape of Water』20Century Fox”

「今の時代に合ってないんだ」


絵より写真の時代


いい絵だが…
と価値は認められても
コスパが悪い
と判断される


彼は写真に
絵の広告の仕事を奪われ
時代に置き去りにされていく
自分に悩みます


そんなアナログ精神で生きる
ジャイルズとパイ屋の
エピソードは
いろんな含みが
あって面白いです


ジャイルズは
行きつけのパイ屋の店員に
好意を持っています
昔堅気から意外な
「ゲイ」という
現代的な悩みも
抱えているのです


さらに
お気に入りの店員のいる
パイ屋は消費社会の代表
フランチャイズ店」
という皮肉


本部から
広告グッズが配布され
方言を直される
マニュアル化された接客
そこから生み出されるのは
青緑色の大量生産された
不味いパイ


この憎むべき
自分の仕事を奪った
真逆の価値観
資本主義スタイルで生きる
店員に恋愛感情
を抱いてるのです


テレビでダンスする
若い娘を見て
つぶやきます


「若さと美貌に憧れる
 何も知らない
 18才に戻れたら
 人生を楽しみたい」


ジャイルズの
キャラクターは複雑で
昔ながらの
職人芸
手作り文化
を愛しているが
ゲイが認められない
という
古い価値観に
とらわれる社会
にも悩まされている


そのために
若い時、
思い切った恋愛経験が
できなかったのを
悔いているのです


これは監督自身の
映画製作のジレンマ
「古き良き技術」
は愛すべきだが
「古い価値観」
に縛られるのは
ゴメンだ
という考え方が
投影されている
のかもしれません


言い換えれば
新しい発想を受け入れ
手堅い技術がそれを支える
それが理想だと。

◆三章 文明の怪物

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“『The Shape of Water』20Century Fox”

暴言を吐いて
棒を振り回す
コワオモテ
という
典型的な悪役として
ストリックランド
が登場します


傑作の悪役は
何かを背負っています
彼も例外ではありません


悪役なのに、
彼の平穏な家庭を
見せるシーンがあります


何故、
悪役に家庭のシーン
を入れるのか?
彼を悪に走らせたものを
描きたいからです


ストリックランドは
職場にいる時には
眉間にシワを寄せた強面が
家の中にいると
怒りだけでなく
苦しみの表情
を見せるのです


彼は何かに苦しんでいる


それは彼の
心の叫びが
爆発するセリフに
現れます

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“『The Shape of Water』20Century Fox”

「失敗した  
 たった一度のミスです
 それでクズ扱い
 自分がまともな男
 であることをー
 いつまで証明
 すればいいのです?」


彼は成功しなければ
いけないという圧力
に苦しんでいる


「ポジティブ思考」
という本を読み漁る


子供のころから
大好きなキャンディ
を口に入れ、
気持ちを落ち着ける
不安があれば、
すぐ噛み砕く


家族と一緒に
都会に落ち着く夢


カーショップで
販売員の売り文句


「成功した人が乗る車
 今がその時
 つかんでください」


「何を?」


「成功を」


そして失敗を恐れる
ストリックランドに
さらに軍部の上官は
圧力をかけます


まともな男は失敗しない
 それが本当のまともだ
 それ以外のまとも
 は重要でない
 他国にくれてやる」


この強い成果主義
圧力が
ストリックランド
を怪物に
させていきます


「まとも」
になろうとする
彼の苦しみと
怒りでいっぱいの表情は
追い詰めらた人間
の狂気そのものです

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“『The Shape of Water』20Century Fox”

押し付けられた
「まとも」が
狂気の怪物を
産んでいるのです


この苦しみは
他人事ではありません
現代に生きる
多くの人達は抱えています


鏡を見てみましょう
知らぬうちに
怪物の貌を見せている
かもしれません

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“『The Shape of Water』20Century Fox”

文明の怪物は
その姿が見えない
心の中に棲む
怪物なのです

◆終章 自然の怪物の正体

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“『The Shape of Water』20Century Fox”

アマゾンから
運ばれてきた半魚人
自然の怪物の正体とは何か?


イライザの怒り。
この世で生きることが
できなかった
イライザの魂が生み出した
生への執着。
それが
怪物の姿となって
現れたのではないかと
個人的に思いました


どういうことか?


イライザの生い立ちは
赤子の時、
川に捨てらた孤児で 
ノドを切られて
声が出せなくなったこと
だけが明かされます


恐らく彼女は
その時点で
亡くなっていた
のだと思います


暗示的に出てくる
ゆで卵が
ヒントになっている
ような気がします
(意味ありげに
 ゆで卵を見せる
 シーンが多い)

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“『The Shape of Water』20Century Fox”

殻に閉じこもったまま、
卵から
かえることのできなかった
意味を含んでいる


だからイライザは
見た目は年配の女性ですが
無垢な雰囲気
無邪気な行動
から感じる通り
魂は
永遠に少女のままなのです

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“『The Shape of Water』20Century Fox”

つまり
この世に
イライザは
生まれることが
できなかった

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“『The Shape of Water』20Century Fox”

それは
この物語全体が
イライザの夢の世界
であることを
意味します

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“『The Shape of Water』20Century Fox”

この世に生きることが
叶わなかった
声を失った王女の
夢の世界


時おり見せる
イライザが
うっとりとした
表情をするシーン
これは夢見がち
なのではなく、
夢心地。

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“『The Shape of Water』20Century Fox”

夢の世界にいる
という証拠だ
と思います


時は過去から
流れる川にすぎない
という
言葉がでてきます

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“『The Shape of Water』20Century Fox”

アマゾンという川の果てで
同じように
川に捨てられた
文明の汚物の中で
半魚人の怪物
という存在になり


それが軍によって発見され
かつて
イライザが
捨てられた川
のある町の研究所まで
時をさかのぼるように
戻ってきた


だから半魚人は
自分を亡き者にした
人間達への
イライザの怒りの魂
そのもので
半魚人が狂暴で
恐ろしい姿をしているのも
納得いきます


さらに
人間が許せない
怒りの魂は
そこで
自分を亡き者にした
存在を知ります


それが文明の怪物
ストリックランドです
恐らく彼女を
亡き者にした父親
つまり
暴君的な男性を敵視する
幻想が重なるのです

 
だから彼女の
のどを傷つけた
父親の指を
ストリックランドの指に
男という暴君の象徴
のイメージを重ね
指を切り落とす
復讐として
描いているのです

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“『The Shape of Water』20Century Fox”

そして同時に
イライザの怒りの魂である
半魚人は
導かれるように
彼女の願いを形にした
この世で人生を送る
もう一つの
イライザの魂
と出会います


結果、
イライザの中に生まれた
二つの魂
過去の怨念と未来の願望
が向き合うことになるのです

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“『The Shape of Water』20Century Fox”

その後
人間として生きる
イライザの魂は
半魚人の怪物となった
怒りの魂を
愛することで
自身の魂の中に残る
怒りや恨みを
浄化していきます

 

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“『The Shape of Water』20Century Fox”

この物語の
愛というのは
恋愛でなく


愛されて
この世で生きること
が出来なかった
イライザ自身を
自分自身が
その存在を認めること
自己肯定の愛
を意味している
のだと思います


イライザが
半魚人に
その思いを込めて
歌う歌詞


あなたは
決して分からない
どれほど
あなたを愛しているか
どれほど
深く私が想っているか


かつて捨てられた
自分に向けての
慰めの言葉


捨てられた魂
怒る魂
に対する
浄化の言葉


自分を憎むな
世界を憎むな
自分自身を愛せ
そして
この世界を愛せ


ノドを切られ、
声を上げること
ができず
誰にも存在を
知られることなく
この世から
消えていった魂へ


自分自身の夢の中で
人生を肯定し
生まれてきたことに
意味があった


誰からも知られず
愛されずに
死んだのではなく
誰か思う人がいて
愛する人
いたのだという
孤独になった魂を鎮める
鎮魂の物語
なのかもしれません


そうすると
この世で生きていたら
楽しんだであろう
ー音楽
ー人生
愛を。
話すことのできなかった
言葉で
半魚人
(この世と人間を恨む
怒れるイライザの魂)
に教えるシーンは
単に言葉を
教えている以上の深い意味
を持って
心が震えます

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“『The Shape of Water』20Century Fox”

最後の愛の詩


気配を感じる
あなたの愛が見える
愛に包まれて
私の心は
優しく漂う


この詩は
イライザの魂が
物語を通して
多くの人に
愛され
二度死なずにすんだ


一度目の
肉体の死をもたらした
ノドの傷は
黒い記憶とともに
消え


二度目の
人々の記憶に
残らない
この世から忘れられる
魂の死
からも救われた

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“『The Shape of Water』20Century Fox”

人々が
物語を通して
イライザは
間違いなく
この世のどこかで
生きていたんだよ
という
存在の肯定が
イライザに
愛という形の
救いをもたらした
ことを意味している
のではないかと思っています


最後にー
イライザは
誰かに似ていると思いませんか?


アンネ・フランク

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アンネの日記アンネ・フランク

彼女の日記も
生きられなかった人生を
語りづがれることで
その魂の記憶は
生き続けています

※注意 あくまで個人的な解釈です
    もちろん映画の解釈は自由で
    答は見た人の数だけ存在します