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シネマ絵ッセイ

映画の感想、考察、レビューなど 絵や画像を使ってエッセイ風に書いています

「殺人の追憶」裏テーマ~迫るのは事件でなく、人間の闇というブラックホール~

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“イラスト化ー映画「殺人の追憶」CJ ENM”

※注意 ネタばれ有りエッセイなので、
映画「殺人の追憶」未見の方はご注意ください

◆序章 人は悪を決めることが出来るのか?

「眼を見て、直感でわかる
人を見る目があるから、捜査課に回された」
自信満々に語る地元刑事パクに
ク課長が問います。
「一人は強姦犯で、
もう一人は被害者の兄さん
どちらが犯人か当ててみろ」

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“映画「殺人の追憶」CJ ENM”

あなたはどちらが犯人だと思いますか?


傷の目立つガラの悪そうな男
ー見た目から乱暴そうなコイツだ
細々とした青白い大人しそうな男
ーいや意外と、
こういう奴がサイコなんだろ


あなたの心に「決めつけ」が
働きませんでしたか?
人は何の根拠が無くてもー
背景を何も知らなくてもー
自分だけの人生経験、
直感から判断しがちです。
地元刑事パクの
鋭い眼差しのアップで
場面が切り替わり
「答え」はこの時点では示されません。


何故なら、
このシーンが物語全体を貫く
「問い」を投げかけているからです。
そして物語が進み
ラストに
「答え」でなく
「応(こた)え」が来ます

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“映画「殺人の追憶」CJ ENM”

「俺はもうわからない」


物語途中に出てくる哲学的なセリフ
「なぞなぞを最初に考えたのは誰か?
 それと同じでわからない」
あらゆる差別、格差、人間の闇
を生んだのは何か?


これが物語の
真のクエスチョン?だと思います
犯人捜しの話とは別の裏テーマ
「人は悪を決めることが出来るか?」
犯人の見える残酷さを追う内に、
村人の見えない残酷さが見えてきます
犯人の闇を追う内に、
村社会の闇が垣間見えます 
そして辿り着くのはトンネルの穴
人間の闇というブラックホール
だから犯人を
捕まえることができません
永遠に。
事件というのはモチーフに過ぎず
迫りたいのは事件でなく
底なしの
人間の闇(ブラックホール

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“映画「殺人の追憶」CJ ENM”

文明の灯は
夜を無くすことが出来ても
闇を無くすことが出来ない。
そこで生きる
人間の理不尽な運命の怒り。


三人の犯人に疑われた村人を追いながら
村人の闇
社会の闇
刑事達の闇
人間の闇
を深く掘り下げていこうと思います。

◆1章 差別の闇

青空の下に揺れる金色の稲穂
のどかな風景が画面いっぱいに
広がる真下で
地元刑事パクが側溝の中の闇を覗く。
黒アリの嵐に覆われた、
青白い女性の肢体
刑事達が初めて村の闇と
出会う象徴的なシーン
幼いころから何気なく過ごしてきた。
この村で、
地元刑事パクと地元刑事チョは
コンクリートの側溝に
闇の入り口を見つけてしまいます。
そして闇の正体を確かめるべく
捜査を始めます。


顔、顔、顔のアップのカットが続く
いびつな顔、卑しい顔、貧祖な顔
全てに攻撃的で
キツい取り調べが続きます。
アクセントを打つように
スーツ姿の髪の整った男。
手の平を返したかのような
穏やかで紳士的な取り調べ。
まさに「差別の物差し」
が表現されています。


その後、
田園で起きた第二の殺人の犯人に
知能障害を持った焼肉屋の息子
を容疑者として
無理やり連行します。
狭い村社会の噂話を元に
辿り着いたのは
「偏見」という差別の闇です。


スニーカーの証拠をでっち上げ
林の中での自白強要 
イスに縛り、暴力で脅し、
「偏見」を「正当な証拠」
にすり替えていく


そこに都会の市警から来たエリート
市刑事ソがこの村社会の「偏見」に
ピリオドを打ちます。
知的障害のある息子は
手が火傷でくっついてヒモを縛れない
死体にあるヒモを手で
結ぶ小細工はできない


知能障害の息子とは何者なのか?

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“映画「殺人の追憶」CJ ENM”

市刑事ソがつぶやく
「あいつは犯人とは
一番縁遠い人間です」
このセリフに全てが
込められていると思います。


知能障害の息子は
犯人ではなく被害者なのだと
村に隠れ潜む闇、
差別の闇の被害者。


それは物語の前半
息子の無罪を
必死に訴える父の姿から、
障害を持つ父と子の関係は
愛情のあるものと思えましたが、
物語の中盤ー
事件の目撃者である
知能障害の息子が、
問い詰められ、発作を起こして語りだす 
事件の闇でなく、
彼自身が見たもう一つの闇の告白
「俺が子供のころ、
あの人が俺をかまどに放り投げた」
彼の視線の先には
心配して駆けつける父。
手や顔にある火傷の原因ー
目に見えない真実の残酷さが
重くのしかかります


さらに残酷な仕打ちとして
息子は電車にひかれ
事件の真相
父の虐待
は闇の中に葬られます。
無垢な魂ほど
闇に飲まれるのかもしれません

◆2章 格差社会の闇

市警刑事ソの
ー「最新の科学捜査」
地元刑事パクの
ー「昔ながらの現場捜査」
の主張対立は
進むと都会と
置き去りにされる田舎の
格差を表している気がします。


「ソウルの田舎者!!」
地元刑事パクが、市警刑事ソを
罵る皮肉の言葉にも
格差の怒りを感じます。


また、地元刑事パクが熱弁する
アメリカは広い国だから頭を使う
大韓民国の狭い国の捜査は足を使う」
に至っては国の格差を
指摘しているような気がします。
置き去りにされている
国全体への皮肉ともとれます


もしくは、
韓国らしさを忘れてないかと
何でもアメリカにならえでいいのかと…


捜査方法が分かれた二人の刑事ー
面白いのは、
人は行動する時
①体を使う(現場の足の捜査)
②頭を使う(科学捜査)
という順番でダメだとわかると
辿り着くのは
③霊感  
(地元パク刑事の占い師のアドバイス
(市警ソ刑事の殺害現場で
ラジオを流し、瞑目する)
ここで2人は
「犯人は現場に戻る真理」に至り、
刑事達が合流するという見事な流れ。


そして現場に現れたのは
女性の下着で自慰する変態男。
追いかける三人の刑事ー
市警と地元刑事は一体となり疾走する
見事なカメラワークの躍動感

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“映画「殺人の追憶」CJ ENM”

 

変態男とは何者なのか?

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“映画「殺人の追憶」CJ ENM”

変態男の近所の評判は良く
真面目で、
家族思いの、
働きものの労働者


しかし
彼には休まるところがない
家は狭く汚い、蠅の羽音がうるさく、
病気の妻と子供を抱えている。
息ぬき出来る場所がない
外で自慰する→プライベートがない
自分の自由な時間すら持てない
貧しいものは、
場所も、
時間も、
プライベートもない


変態男が、取り調べで吐く言葉
「藁をつかんで
どんどん登っていきました 
すると着いたところが家じゃなくて、
学校の便所だったんです」
半地下(貧民)で暮らすものは
便所すら見上げる。
究極の格差社会の闇。
働いても、働いても、報われない
ー底なしの貧乏地獄。
底から一生懸命這い上がっても
ー先が見えない。


学校で市刑事ソが女学生に聞く
「便所に隠れている犯人の話、
誰が最初に話したか?」
女学生の答え
「なぞなぞを最初に考えたのは誰か?
 それと同じでわからない」


誰がこんな社会にした?
誰が悪い、何が原因?
というより、気づいたら
いつのまにかー
貧乏と金持ちに分かれていた…
という格差社会の不条理を
表現していると思います。

◆3章 権力社会、学歴社会の闇

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“映画「殺人の追憶」CJ ENM”

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“映画「殺人の追憶」CJ ENM”

取り調べ室の闇の中で
対峙する刑事達と青年ヒョンギュの絵面は
当時の、
警察=「軍の権力」
青年ヒョンギュ=「反抗する学生」
の対立を風刺している構図にも見えます。
強く迫る刑事達に
「あなたたちが拷問しているのは
子供でも知っている」
ここで庶民の、若者達の
警察権力に対する
本音が吐露されます。


白い手のインテリ文学青年は何者か?

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“映画「殺人の追憶」CJ ENM”

最も犯人の疑いが強い
ミステリアスな存在として
描かれています。


当時は軍事政権と
学生が衝突していた時代ー
刑事は権力側の人間
力で服従させようとします。
刑事達の取り調べを
拷問と呼ぶのもうなずけます。


青年のため息、
やれやれという表情
権力者に辟易とした
当時の若者の心だと思います。
その眼差しの鋭さは
反抗する若者の決意。
間に何度か挿入される
学生運動の衝突と重なります。


そして
対になる存在として、
青年に蹴りを入れる
地元刑事のチョ刑事
この乱暴な刑事のキャラは
不快すぎて
理解できなかった人
は多いと思います。
この地元刑事チョとは何者なのか?

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“映画「殺人の追憶」CJ ENM”

悲しい学歴コンプレックス。
韓国は超学歴社会で、
人生が学歴で決まる
といっても過言でないようです。


地元刑事チョが先輩刑事パクに大学寮のことを
うらやましそうな視線で聞く。
学生運動する女子大生の
髪をつかんで暴行
そして飲み屋で大暴れ 
大学生達に吠える
「親のすねかじりが!」
「教授と寝たんだろ!」
その地元刑事チョの目に余る
暴行シーンが多い中、
彼の悲しさ、惨めさが
描かれる場面があります。


青年ヒョンギュに蹴りを入れて
取り調べを台無しにした時、
シン課長が怒り、地元刑事チョを
階段から蹴り落とすシーンです。
乱暴な地元刑事チョが無抵抗に
階段から転げ落ちていく。
階段の下で身を丸め、むせび泣く。


権力には逆らえない惨めさ
韓国の父性社会 
父、年上の先輩は絶対的
学歴も地位も年齢も上のシン課長は
超えられない壁。


その地元刑事チョにクギを刺すのが
知能障害の息子。
焼肉屋で暴れる地元刑事チョの足に釘を刺す
これは痛烈な皮肉。
学歴とは最も外にある
純粋無垢な子供のような男に
そのコンプレックスを砕かれる


刺された釘は破傷風という罰を
地元刑事チョに与えます。
傷を放置しておいた無知と
粗雑な性格への残酷な罰。
地元刑事パクが地元刑事チョを
病院へと連れてった時
手術の許可のため
親族のサインを求められます。
ここで地元刑事チョに親がいないことが
明らかになります。


親がいなく、貧しく
教育を受けられない悲しさ
超学歴社会では最悪の貧乏クジ
そのやりきれない怒りを
当たり散らしていた
彼の惨めさ、切なさが滲む
学歴社会の闇が生んだ悲しい存在

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“映画「殺人の追憶」CJ ENM”

◆4章 人間の闇というブラツクホール

川のほとりで
行き詰った地元刑事パクに恋人ソリョンが言う 
「刑事をやめたら?人のする仕事ではない」
この言葉の投げかけは
「真の悪を見つだすことが人にできるのか?」
という問いに聞こえます。


善悪は何の物差しで測られるのか?
道徳?
道徳は国や人によって違います。
共通する部分もあれば、
違う部分もあります。
人によって千差万別
道徳ほど曖昧なものはありません


刑事の恋人ソリョン
彼女の描き方にも善悪割り切れない
描き方がされています。
田舎の出歩きが不自由な老人たち
のために薬を売って回っている
それは「福祉」という善だが、
地元刑事パクの
「病院時代より儲かっているらしいな」
の言葉どおり
医療品を高齢者に転売している
という卑しさも含んでいる。
でも彼女の存在は
村の老人の助けになっているのも事実で、
コトは単純ではないような気がします。


物語も佳境に入り
灯火管制の夜闇 
訓練空襲警報の声が響く中
最後の非情な事件が起きます。
刑事に噂話を話してくれた少女の惨殺
市刑事ソの怒りは一線を超え
その矛先は青年ヒョンギュに。


トンネルの先の見えない闇は
ブラックホールのように
市刑事ソを闇の世界へと
引きずり込みます。

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“映画「殺人の追憶」CJ ENM”

「お前見たいな奴が死んでも悲しまない」
「お前が殺したと言え」
「全部吐け!」
狂ったかのように人が変わり
殴り、蹴り、にらみつける市刑事ソ


青年ヒョンギュは血に染まった唇で答える
「俺が全員殺した」
「この言葉を聞きたいか?」
「気が済んだか?」


震える手で拳銃のリボルバーを回す市刑事ソ
止まらない怒りと殺意。
何が彼をこれほど変えたのか?


市刑事ソとは何者なのか?

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“映画「殺人の追憶」CJ ENM”

真実がわからない人間の怒り
その怒りに飲み込まれる愚か者


「今までよくもあざ笑ってくれたな」
「俺たちをあざ笑ったろ」


何が真実で、何が嘘かわからない
もどかしさ、
答えを見つけ出すことのできない
人間の怒り


偶然生まれて、突然死んでいく
この理不尽に
神か悪魔が運命を
もて遊んでいるのではないか
それを天から、地獄から笑みを浮かべて
楽しんでいるのではないか
犯人への怒りに
この答えの出せない人生の理不尽が、
重ねられているように感じます。


銃を向けようとする市刑事ソの元に
地元刑事パクがアメリカからの
DNA鑑定の結果を持って現れます
食いつくように書類を見る市刑事ソ
「犯人とは断定できない」の一文
紙きれひとつで全てが振り出しに戻る。
魂が抜けたように
宙を見るめる市刑事ソの虚ろな瞳


科学捜査より肉体捜査が
俺のやり方だとばかりに
地元刑事パクは得意の霊媒師の目で
青年ヒョンギュに迫る
真実を見抜こうとする地元刑事パクの鋭い視線
真実を訴える青年ヒョンギュ強い眼差し
「ちゃんと見ろ!」
相対する2人の魂。


地元刑事パクとは何者なのか?

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“映画「殺人の追憶」CJ ENM”

自身の狭い価値観で
悪を見つけ、悪を決め、悪を裁く
勘違いした人間の思い上がり。


「俺はもうわからない」
このつぶやきで
地元刑事パクのやってきた拷問捜査
の呪いが解けます


地元刑事パクの顔つきは穏やかになり
「飯は食っているか?」
「行け」
と初めて犯人を気遣います。
自分が正しいと信じた
狭い価値観で
悪を見つけ
悪にしたてあげていた
自分の業に気づいたのだと思います。


トンネルの闇の向かって
歩み去る青年ヒョンギュ


市刑事ソの発砲する銃弾は
闇に吸い込まれ届かない


振り返る青年ヒョンギュ
青白い眼差しでこちらを見据える


その姿は
永遠に捕まえることのできない闇
人間では手の届かない
闇の世界へと
消え去る死神のようにも見えます。

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“映画「殺人の追憶」CJ ENM”

◆終章 小瓶に閉じ込められたイナゴの謎

 最後にー
少年が最初の事件現場で、
稲にいるイナゴをつまみ取る
印象的な冒頭シーン。


初めて見た時、
何気ない日常の一コマだと
見過ごしていましたが
見返してみると、
パク刑事に
イナゴが入っている小瓶
が見えないように
少年は後ろに隠し続ける
ことに気づきました。


まるで小瓶の中に閉じ込めたイナゴが
誰も見ることのできない
被害者の魂
事件の真相
真実
のように見えます。


物語の始まりから
パク刑事達は
真実を知ることのできない運命
を暗示してるのかもしれません

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“映画「殺人の追憶」CJ ENM”