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シネマ絵ッセイ

映画の感想、考察、レビューなど 絵や画像を使ってエッセイ風に書いています

映画「レ・ミゼラブル」感想 あえてこのタイトル、込められた強い意志

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“映画「レ・ミゼラブル」Rectangle Productions Lyly Films”

目次

◆作品紹介

2019年製作のフランス映画
監督:ラジ・リ
監督は映画の舞台である
モンフェルメイユ出身
現在もその地に暮らす

●2019年・第72回カンヌ国際映画祭
     審査員賞
●第92回アカデミー賞
 国際長編映画賞にノミネート

◆あらすじ

パリ郊外に位置するモンフェルメイユ。
ヴィクトル・ユゴーの小説
レ・ミゼラブル」の舞台
でもあるこの街は、
いまや移民や低所得者が多く住む
危険な犯罪地域と化していた。
犯罪防止班に新しく加わることになった
新人配属された警官のステファンは、
仲間と共にパトロールをするうちに、
複数のグループ同士が
緊張関係にあることを察知する。
そんなある日、
イッサという名の少年が引き起こした
些細な出来事が大きな騒動へと発展。
事件解決へと奮闘する
ステファンたちだが、
事態は取り返しのつかない方向へ
と進み始めることに……。
レ・ミゼラブル公式サイトより引用)

◆イントロダクション(序章)

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“映画「レ・ミゼラブル」Rectangle Productions Lyly Films”

この映画には水がない
渇きを癒す潤いがない
渇き切っている
それが第一印象でした。


殺伐とした渇き。
映画に出てくる人々は
皆渇いている
飢えと渇きに満ちた
ギラギラとした眼で生きている


普通の映画であれば
物語のオアシスとして
水の要素ー
癒しのキャラクター
主に女性ー恋人、母、子供
だったりしますが
レミゼラブルには
そういう人物が現れません。
主人公が唯一、理性的というぐらいです
女性も子供ある意味リアルで
タバコを吸う女学生
SNSに夢中になる子
生活に必死な母親
皆どこかイライラしているのです
もちろん美男、美女
といった目の癒しもほとんどありません
確かにリアルな日常ですが
常に火花を散らしている
このレミゼラブルという街には
火のイメージ
争いの導火線が街のあちこちにあふれ
常に一触即発の緊張が漂う
日本人から見ると
ありえない非日常の世界が
そこにあります


フランス、ヨーロッパ大陸という性質上
移民の問題
いろんな人種が集まって
考えも、習慣も、生き方も
まるで違う価値観が
一つの街に集められたら
島国である日本人の思いもよらぬ
世界があるかもしれません
しかし島国にいる日本人にとって
この映画「レミゼラブル」は
他人事のファンタジー
のように見えるでしょうか?
恐らく
この街に住む人々の
怒り
悲しみ
憎しみ
はむしろ身近なものに
感じると思います


それは最近話題になった映画
あるいは映画祭で評価されている
作品が国や人種に関係なく
一つの問題「格差社会
を取り上げているからです
日本では「万引き家族
英国では「私はダニエル・ブレイク」
韓国では「パラサイト」
アメリカでは「ジョーカー」
と話題作のほとんどが
格差社会を扱っているという
皆、意識したわけでもなく
本当に偶然ーあるいは必然
今の世界の人々を描こうとすると
格差社会
を描きざるおえないと思います


レミゼラブルというタイトル
これは痛烈な皮肉を込めた
強い意味を感じます
歌劇で描かれる人々の
ドラマチックな貧しさでなく
リアルな貧しさ
レミゼラブル
=悲惨な人々の本当の貧しさ
を描こうという
監督の意志を感じます


レミゼラブルで描かれる
今を生きる悲惨な人々の貧しさ
とは何かについて
話していこうと思います

※ここから先はネタバレ感想です 
 ご注意下さい

◆一章 貧しくなった正義ーパワハラ

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“映画「レ・ミゼラブル」Rectangle Productions Lyly Films”

物語は新しく配属された警官の
新人研修のパトロールから始まります
そこで目にする街に漂う貧しさ
ゴミが散り
建物はひび割れ
壁は落書きのラップに覆われている


出会う人ほどんどが気さくで
知り合いかのように
声をかけていきますが
ほどんどが刑務所あがりの職無し。


「俺たちは尊敬されている」 
先輩の二人の警官は
王のごとく街をかっ歩し
取り締まりという名の
暴力をふるい続けます
タバコを吸う不良少女への
行き過ぎた注意
警官の横暴をスマホで撮る友達
スマホは取り上げられ
投げ捨てられる
地面に砕け散る不正。


「謝るな」
「なめられるな」
横暴が街の中を
王の如く行進します


女上司が先輩警官を
キレやすいが、強さがある
と紹介し
それがないとこの街で
警官をやっていくのは難しい
ことを語ります
確かに強さは必要だと思います
しかしその強さと圧力なのでしょうか?
秩序(ルール)を守らせるために
人々を列にきっちり並ばせる
列を乱す者がいたら、どうするか?
怒鳴りつけるのか?
強引に列に体をねじこませるのか?


先頭に立ち
列が乱れぬように
列に並ぶ意味(ルールの正しさ)を
示し見せる
正義とはこの意志だと思います
意志の失った貧しい正義は
暴走します


「俺が法律だ」


貧しくなった正義の
行きつく先は
自己満足の秩序(ルール)
を押し付ける
支配ー「パワハラ


この貧しさは
外国のファンタジーなのでしょうか?
日本でも
いや世界のどこにでも見られる
今そこにある
貧しさの一つなのです

◆二章 貧しくなった心ーマウント

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“映画「レ・ミゼラブル」Rectangle Productions Lyly Films”

トロールの最中
ライオンの子供が盗まれた
と騒ぐサーカス団と
街を仕切る市長の
言い争いに遭遇します


どちらも見た目が
いかつく
顔つきも凶悪そう
市長と一般市民の口論といよりは
街の荒くれもの同士の
ケンカにしか見えまぜん


この街には大人がいない
皆が頭に浮かぶ
落ち着いた大人というものがいません
警官達はすぐ仲裁に入るが
口論がヒートアップし
いつ爆発するかわかない
緊迫状態に陥る
やむえず警官が
空に向かって一発
銃声を響かせて
ようやく落ち着く


警官たちは市長達に
「ライオンの子供探し」を命じます
全てが圧力で
進められていくので
市長も市民も不満の
ガスが溜まっていきます


そしてインスタに
アップされたライオンの子供の画像から
犯人の少年を見つけ
グランドでサッカーを楽しむ少年を
無理やり引き回し
駐車場まで連れていき尋問。
そこに少年の仲間が集まり
警官を囲み大騒ぎします
混乱の恐怖から
警官が空気銃を
空にではなく
肉の壁、
少年の顔に打ち込みます


ぐったりと倒れた少年
それを見つめる
神の目
何者かのドローンが
全てを見ていたのです


ドローンの影に焦った警官は
少年の命より
アクシデントを隠す
ことに必死になります


このアクシデント
警官達の落ち度が
市長に知られ
「動画で警察を潰す」
という
ドローンの動画をめぐって
不正を隠すために走り回る警察
不正をネタにゆすろうとする市長
不正にカネの匂いを嗅ぎつける薬の売人
が加わり
抗争劇が街の中を駆け抜けていきます
その終点に
第三の大人の勢力
イスラムを信じる信仰に厚い人々
が待ち受けます


子供の小さなイタズラが
人種差別
宗教
権力抗争
と全ての問題を巻き込みながら
毛玉のように
大きな争いになっていきます
この大きくなった毛玉
の糸をほぐしていくと
そこに何があるのでしょうか?


アイツらとは合わない
アイツらは許せない
アイツらと俺らは違う


「怒ることでしか主張することができない」


貧しくなった心
が生み出すものは
抗争ーマウント
必死にマウント
を取り合う
惨めな争い


この惨めな争いは
移民の多いフランスだけの
問題でしょうか?
日本の社会の中にも
見られないでしょうか?
いや世界のどこの社会にも見られる
今そこにある
憎しみの一つなのです

◆三章 貧しくなった人ーレ・ミゼラブル(哀れな人々)

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“映画「レ・ミゼラブル」Rectangle Productions Lyly Films”

「植物にいい植物とか
悪い植物があるのか?
植物がうまく育たなかったら、
それは育て方が悪かった」


ミュージカルの原作となっている
レミゼラブルの小説のセリフが
映画の最後に引用されます


映画のラスト
大人の抗争劇の末に辿り着くのは
ライオンを盗んだ子供への罰
サーカス団長から
ライオンのいるオリに閉じ込められ
むきだしの牙に失禁する
心の罰を与えられます
警官にガス銃で顔を撃ち抜かれる
肉体の罰を受けた上に
屈辱的な脅しの罰を受ける


少年は
体も心もボロボロに傷つきます
この大人の罰の与え方は正しいのでしょうか?


大人達のマウント抗争の後
残された子供という被害者

 

少年はグランドに真ん中に立ち
震えます
恐れでなく、怒りで。
赤くはれた目の傷
その眼差しの先は鋭く
街を見つめます


翌日、パトロールでいつも通り走る車
町中の子供達の視線が
彼らの車に集まります


その後、映画の極点(クライマックス)
警官の車は街中の少年の
集中攻撃を受けます
群がるハイエナが死体を
食い荒らすように…


少年達の怒りはエスカレートしていきます
水鉄砲から
フロントガラスを粉々に砕く
ハンマ―の鉄槌
火炎瓶


灯された導火線の火はどこにあるのでしょううか?


ドローン
SNS爆弾投下
動画の拡散


「怒りは避けられない」


もはやSNSのこの時代
嘘を隠し通すことは不可能です


炎上。


怒りの火が街を焼き尽くす
それは灰になるまで
容赦なく続く


貧しくなった心が育てるのは
貧しくなった人
それが
レ・ミゼラブル(哀れな人々)


貧しさとは
今の世界において
物がない
カネがない
のでなく


「余裕がない」


何かに圧迫される
息苦しさ


あるいは圧迫し合う
肩身の狭さ


今、世界を覆う貧しさは
心に余裕がなくなった
レ・ミゼラブル(哀れな人々)の
パワハラ
マウント
によって
さらなるレ・ミゼラブル(哀れな人々)
を生むことに問題があると思います


この映画を撮った監督は
警官の暴力を実際
ビデオに収めて
ドキュメンタリーを作った
ところから出発しているそうです


だから警官を主人公にし
彼らの悪行を見せますが、
同時に
彼らにも家族

母親
がいるところをしっかり見せます


不正に悩む葛藤
ため息
後悔の涙
も描かれます


警官もレ・ミゼラブル(哀れな人々)
なのです


単純な善悪でない
リアルなレ・ミゼラブル(哀れな人々)
を見たからこそ
有名なミュージカルとかぶるような
タイトルをつけて
観客に突き付けてくるのです

◆終章 ハートに火をつけて

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“映画「レ・ミゼラブル」Rectangle Productions Lyly Films”

この映画のラストには
希望がありません
しかし
この映画は、はじめに
希望を見せてくれます


ワールドカップの優勝で
歓喜に沸く凱旋門 
揺れる無数の三色旗
そこにいる人々は
身分も
人種も
宗教も
関係なく
同じフランス人として
祝福し合ってるのです


火は憎しみで燃え上がること
だけを意味しません


火はハートを熱くします
そして
それは喜びの力となって
生きる活力を
呼び起こしてくれます


そこにレ・ミゼラブル(哀れな人々)
はいるでしょうか?


歓喜の人々がいるのです


「貧しさ」をものともしない
ラ・マルセイエーズ
を声高に歌う
歓喜の人々が

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“映画「レ・ミゼラブル」Rectangle Productions Lyly Films”

♫僕らは自ら進み行く
 先人の絶える時には
 僕らは見つけるだろう
 先人の亡骸と
 彼らの美徳の跡を!